ネルスポ NELKE SPOTLIGHT

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「もっと!」――ネルケプランニングが次の10年へ掲げるスローガンには、この3文字に収まりきらない思いが込められています。
2.5次元ミュージカルの発展とともに歩んできたネルケプランニング。創立30年を超えたいま、劇場の取得、海外への進出と、かつて「いつか」と語っていた夢が次々と現実のものとなってきました。
その歩みを、そしてこれから目指す景色を、自分たちの言葉で伝えていく――。公式オウンドメディア『ネルスポ』立ち上げの第一歩として、代表取締役社長・野上祥子に、ネルケの現在地とこれからを聞きました。

ネルケの現在地 ―― 言ってきたことが、実現している

――オウンドメディアを立ち上げるいま、どんな思いがありますか。
サイバーエージェントグループに参画したことで、自社メディア(オウンドメディア)を通じて、自分たちの言葉で発信することの重要性を教わりました。私たちはこれまで、作品を通して、案件ごとに「何をやりたいか」を考えてきましたが、ネルケプランニングという企業としてどうありたいかを打ち出すことは、あまりしてきませんでした。それをやるべきなんじゃないかと気づいたんです。
これまでは、会社のホームページ上で、演劇を観たことがない人がふと観てみようと思った時に、分かりやすく情報を得られることに尽力してきました。年間約50タイトル、さまざまな作品を上演しているので、いろんな楽しいものが入っている玉手箱のように感じてほしかったんです。
ただ、創立から30年経ったいま、「この玉手箱の中を見るとこんなにすてきなことがあるんですよ」というメッセージをきちんとメディアとして見せていくことに意味があるなと。これが10年、20年の時ではそこに至らなかったかもしれない。30年経ったいまが、ベストタイミングなんだと思っています。
社員にとっても、迷った時に見返せる地図のような意味合いになるといいですね。目指すは『地球の歩き方』でしょうか。読んでいて楽しいものにできたらなと思っています。ネルケのエンターテインメントを、長く太く伝えていきたいです。

――メディア立ち上げがベストなタイミングと感じる背景には、かねてから語ってこられた劇場取得や海外進出が、少しずつ形になってきたこともあるのでしょうか。
それはすごく大きいです。夢は大きく持っていいんだ、口に出してもいいんだ、と改めて思いました。「自社劇場があったらいいな、かっこいいよね」とずっと言っていたら、なんと持つことになって。言っておくものだなと(笑)。この天王洲 銀河劇場の取得が、次のフェーズに進む大きな後押しになってくれました。
そして、海外事業も一気に動き出しました。2024年10月に「進撃の巨人」-the Musical-をニューヨークで上演し、『美少女戦士セーラームーン』のパフォーマンスショー“Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Liveのロンドン公演・北米ツアー、2025年8月にはハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」中国ツアー、2026年7月のK-Musical Marketでの舞台「鬼滅の刃」ショーケースへと、間を空けることなく上演ができている。それぞれ国は違いますが、どこも手応えは十分でした。海外の方で客席が埋まったことや、ブロードウェイがあるニューヨークで日本のコンテンツを上演できたことも、大きな一歩でした。

これから目指すこと ―― 観劇人口を、もっと増やしたい

――これから目指しているところを聞かせてください。
シンプルに、観劇人口を、もっと増やしたいです。日本をはじめ、少子化や人口減少が進む地域は少なくありませんが、そのような問題を抱える中で、エンタメ、まして演劇を選んでいただくのは簡単ではありません。だからこそ、さまざまな世代や環境に置かれた方が「演劇も選びたくなる」ように、入口をいくつも用意していかなければと感じています。
もともと2.5次元ミュージカルは「観劇のハードルを下げた」とよく言われます。劇場に行くこと、チケットを買うことがよく分からなかった方たちが、「好きな漫画の舞台をやっているから行ってみようかな」と観劇する一つのきっかけになってきました。
エンターテインメントは、好きな作品だから、好きな人が出ているから、今日時間が空いたから――どんな理由でも楽しんでいい。リラックスして劇場に来ていいですよ、というのがエンタメの楽しみ方で。それを常に提供できていることが、観劇人口を増やす要因の一つになるのかなと思っています。

――選択肢を増やして、選んでもらう演劇になる、と。
それがまさに目指したいところです。選ぶ権利はお客さまにある。だからこそ「これしかないんだ」「白と黒しかないんだ」と思われたくない。こんなにたくさんの色があって、「今日は違う色がいいかしら」と、洋服を選ぶような感覚で観劇してもらいたいんです。
ネルケの強みは、2.5次元ミュージカルを中心に、演劇に触れたことのない方でもトライできる観劇体験をご用意できること。さらに言えば、いま支えてくれている若い世代の方たちが、いずれ大人になって、お父さんお母さんになる人もいて、自分の子どもと一緒に観劇を楽しめる。押し付けがましくならず、でも常に選択肢として用意してある、というのが大事だと感じています。
近年は配信も充実していて、劇場に行くのは少しドキドキしてしまう方も、まずはお家で楽しめる。配信を観てみたら、生で観たくなるかもしれません。生で一度観ていただくための入口として、こうした選択肢も広げていけたらと思っています。

具体策と展開 ―― ブランディング戦略とこれからの取り組み

――そうした選択肢を、どのように具体化していきますか。
人間、生きていく中でいろいろあります。出産、育児、親の介護。どういったシーンでも、楽しめるもの、支えになるものを常に提供していきたいですね。物理的に劇場に行けなくても、配信やライブビューイングでエンタメに触れていただいたり、「60分なら行ける」という方のために、短くて濃厚なエンタメを作ったり。いろいろな形を考えてもいいのかなと思います。
いま考えている事としては、企業や自治体と組む、というのも選択肢を増やす戦略の一つだと考えています。例えば、お隣の韓国は国から支援を受けてオリジナルのミュージカルを開発しています。まずは、私たちが作っているエンタメが、どれほど心を揺り動かすものであるのかを多くの方に知っていただくために、国と協力して一緒にプロジェクトを開発できたらすごくいいですね。
その先に自治体があって、地域を活性化したり、その地域の子どもたちに向けて働きかけたり。いまやっているWELCOME KIDS PROJECTやネルケWESTプロジェクトの、次の形ですよね。いくつになっても、どこにいても、人生を彩る選択の一つとしてエンターテインメントを用意しておきたいですし、その中にネルケの創る2.5次元ミュージカルはどうですか、と提示していけたら理想です。

――子どもと演劇を結ぶという点では、WELCOME KIDS PROJECTのワークショップも一つの成功例です。
本当にそうですね。7月開催の時に講師を務めていただいた末原拓馬さんの脚本も素晴らしくて、人間の成長に一番大事な成功体験を、1週間という短期間で感じることができるワークショップになっています。同時に、事業の一環として成立させていくにはどうしたらいいのか、というのが次のフェーズにおける課題です。政府や文化庁とのタッグのようなことができると、いいのかもしれません。

――誰でも観劇しやすい環境を作るために、チケットの買い方や価格について、今後やっていきたいことはありますか。
本来は席種を増やして、最初の観劇体験の入口として、低価格の席を作れるといいなと思います。ただ、近年の物価高騰などさまざまな影響によりチケット代が上がってきていると思います。どうしても観劇のハードルが上がってしまっているのが現実です。だからせめて、高いチケットを買っていただいたからには、お値段以上の体験をしてもらえる中身を作っていく。どの作品でも常にそう考えていますが、いっそう心がけていきたいですね。
その他、チケットを購入する際に国内と海外で違いがあり、海外のチケットサイトはすごく分かりやすいと思います。日程を選ぶ、座席を選ぶ、カードで入金する、あとは当日QRコードを見せればいい、と。これくらいのステップがベストじゃないでしょうか。ここは国内のプレイガイドさんと相談しながら、シンプルなシステムを一緒に考えていけたらと思っています。

――ロングラン公演についても聞かせてください。
2026年4月から東京・品川プリンスホテル クラブeXでロングラン公演をしている「美少女戦士セーラームーン -Shining Theater Shinagawa Tokyo-」は、原作の武内直子先生と協議を重ねて実現したこだわりの常設シアターです。そこに今、世界からもたくさんの方が来てくださっており、これほどうれしいことはありません。
今後、忍劇「NARUTO-ナルト-」を京都・南座で5ヶ月のロングランでやります。訪日客が溢れる中、観光の合間にパッと行けますし、忍者は海外の方にも人気です。京都で手掛ける作品として最高だと思いますし、過去に8年ほどライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」シリーズをやってきた経験のあるネルケならではだと思います。
どちらの作品も、最高の場所で最高の演劇体験ができる環境が整っていると感じています。東京(品川)に来たら「美少女戦士セーラームーン -Shining Theater Shinagawa Tokyo-」、京都に行ったら忍劇「NARUTO-ナルト-」。品川の近くには天王洲 銀河劇場もあり、ネルケが関わるエンタメステーションでの体験を思い出として持って帰っていただけたら。それが一番いいなと思っています。

©Naoko Takeuchi 
©武内直子・PNP/「美少女戦士セーラームーン -Shining Theater Shinagawa Tokyo-」project 

ネルケの宣言 ―― 次の10年への「もっと!」

――演劇を、漫画やアニメ、ゲームのように「文化・産業の一つ」に、という思いもあるそうですね。
いま、政府の戦略17分野のひとつに「コンテンツ」がありますが、それはゲーム、アニメ、漫画、音楽、実写です。そこに演劇も絶対に入っていいはずなんです。日本初演の作品が海外上演で好評を得て、野田秀樹さんのように海外進出している方もいる。もう十分な成果を出していると感じているんですが、あとはもう知っていただくしかないと思っています。
2.5次元ミュージカルという言葉自体は、だいぶ認知されました。でも、実際に劇場へ足を運んでくださる一般の方の広がりは、まだこれから。だからこそ、いま一度たくさんの方に観ていただくことが、ネルケとしての役割だと感じています。とにかく知っていただくために、一度でいいから観ていただく。この一度が、次につながっていけばうれしいです。
だから、ここに「もっと」という言葉が、すごく合っているんですよ。もっと知ってもらうために、もっとやらなきゃいけないし、もっと丁寧に届けなきゃいけない。この「もっと」が積み上がると実績になり、2.5次元ミュージカルは、日本が生み出した大事な文化の一つなんだと伝えられる気がするんです。

――「もっと」というスローガンが、ご自身の中でしっくり来た瞬間はあったのでしょうか。
実は『テニスの王子様』の作者・許斐 剛先生の存在が大きいですね。私は、先生が連載されている27年間の、そのほとんどを一緒に過ごしてきました。主人公の越前リョーマの口癖が「まだまだだね」です。それに私はいつも奮い立たされる。リョーマくんが、許斐先生が「まだまだだね」と言っている以上、私たちもまだまだだと。先生はいつも「これは序章に過ぎない」とおっしゃいますが、その心意気に触れる度に、「まだまだだよね、だから“もっと”だね」と思わされるんです。
それこそ、テニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』シリーズ)は、ずっと残るようにしていきたい。テニミュは2003年にスタートして、23年を超えました。アニメも25年、原作の連載も27年。こんなコンテンツは後にも先にも出会えないですし、携われたことを誇りに思っています。誰かの人生に必ずテニミュがある「一生テニミュ」という状況を作ることができたら、日本が生んだエンターテインメントが輝いている証拠だなと思うんですね。ネルケが「もっともっと」という思いで動いていくことが、それにつながる気がしています。テニミュ以外の作品も、長く誰かの人生の支えになるように、10年、20年と続くコンテンツに育て上げていきたいです。
そしてネルケとしては、2.5次元ミュージカルはもちろん一生やっていくつもりですが、オリジナルコンテンツを作って、ロングランにつながるような作品を開発することも、すごく大切な事と捉えています。韓国発のオリジナルミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』がアメリカのトニー賞を受賞したことは、ものすごく刺激になっていますし、夢があるなと感じています。

――その先には「ワン・アジア」という構想もあるそうですね。
中国と韓国と日本で共同開発をする、という未来があっていいと思うんです。そのためにも、まずは「ワン・ジャパン」であることを意識していきたい。先日、韓国で開催されたK-Musical Marketでは、日本のエンタメ企業のみなさんともご一緒しました。さまざまなお話をさせていただいて、ワン・ジャパンになりうる力を感じることができました。日本、アジアと手を組んでいけたら、いずれは「みんなで世界を目指そう」と言えますし、その向こうには世界平和がある。エンターテインメントは平和のバロメーターであると言っても過言ではないですからね。ワン・アジアというつながりがあれば、ラブ&ピースを目指していけるのではないか。すごく大きな目標ですが、ネルケらしいなという気もしています。

――最後に、これから演劇に出会う人へ、メッセージをお願いします。
一度目の観劇が大事だからこそ、その一度をどうお伝えするか、というのは永遠のテーマです。
その具体的な形として、以前からずっとやってみたいと思っているもので、小学校での巡回公演があります。子どもたちにとっての日常である身近な場所で、特別な経験をさせてあげたい。イギリスでは演劇教育がすごく盛んで、幼少期に演劇に触れる機会を作っています。日本ももう一歩踏み込んで、子どもの時に一度だけでも演劇に触れられるようにしたい。一生好きでいてほしい、とは言いません。途中でサッカーやダンスに行っていい。でも、一度、演劇に触れておくことはすごく大切なんじゃないかと思うんです。
本当は、小学校の授業に「演劇」あるいは「表現」という授業を作れたら、と思っています。ゆくゆくはお客さまになってくださったらすてきだけれど、そうじゃなくてもいい。心を動かして、生きにくい世の中でも頑張って歩んでもらう方が、子どもたちにとって大事ですから。もし余力があったら、ぜひ演劇も、という思いです。私自身、演劇にずっと助けられてここにいますから。演劇が、その方の幸せの一つになったらいいですね。

(取材・文:双海しお、撮影:濱田茉里)