言葉も予備知識も超えて、五感に飛び込ませる演出
ストーリーを知らなくても、言葉が分からなくても、心が躍る。その「直感的な楽しさ」は、どうやって設計されているのでしょうか。
構成・演出を手がける植木 豪が、まず軸に置いたのは「原作者・武内直子先生が好きになってくれるもの」でした 。その先に生まれたのが、この劇場でしか出会えない『美少女戦士セーラームーン』です。
本企画では、品川プリンスホテル クラブeXにて上演している舞台「美少女戦士セーラームーン -Shining Theater Shinagawa Tokyo-」を、プロデューサー、構成・演出、脚本それぞれの視点から全3回にわたって紐解きます。
第2回となる今回は、言語に頼らず観客を世界へ引き込む、植木 豪の演出論に迫ります。
(インタビューは2026年6月下旬に行われました)
ダンサー、振付師、演出家、俳優。PaniCrew のメンバーとしてデビュー後、舞台、ライブ、ミュージカル、2.5次元作品を中心に幅広く活躍。近年は演出家として高い評価を受け、ダンス、アクション、ラップ、映像を融合させた独自のステージ演出を確立している。 俳優として『フットルース』の主演をはじめ、『ハイスクールミュージカル』、『グリース』など数多くの舞台作品に出演。 演出家として『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stageシリーズ、『進撃の巨人 -the Musical-』など人気IP作品の演出を多数担当している。
「武内先生が、好きになってくれるもの」——演出の、ただ一つの軸
――前例のないインバウンド向け作品。どんな心構えで臨まれましたか。
植木:一番難しい挑戦だと思います。国内のお客さまにも作品ファンの方にも認めてもらい、さらに言葉の壁を超えていかなければいけない。だからこそ、亀田さんと新しい挑戦に乗り出したいと思って、脚本には亀田さんを猛プッシュしました。松本さんがまず僕に声をかけたこと自体が、すごくチャレンジだったと思うんですよ。だからこそ気が引き締まりましたし、かっこよくて楽しいものにしなきゃなっていう思いがありました。
――演出の軸はどこに置きましたか。
植木:軸は、武内先生が好きになってくれるもの。ファンの方はもちろん、自分なりの好きなシーンも当然ありますが、先生が本当に描きたいものこそが大事だと思うんです。そこがズレないように、先生の原画を何度も見て、どういうカラーがお好きなのか、どういう女性像を描きたかったのかを特に意識しましたね。その点、亀田さんは原作へのリスペクトをバケモノ級にお持ちの方なので、僕はただ「亀田さん、こういうのを作りたいです」と、思いついたものをどんどん投げました。
――言葉がわからなくても楽しめる体験を、演出としてどう実現しましたか。
植木:まずはこの劇場の、客席との距離が近いという特性を活かした没入感づくりです。この世界にお客さまもセーラー戦士も存在していて、1時間、スーパーセーラームーン/月野うさぎたちと旅ができることを意識しました。敵が攻撃してくるシーンも、お客さまに近いところに攻撃が来ている、と想像しながら作っていました。
亀田:敵の攻撃に合わせて、照明が実際に降りてきますよね。
植木:そうそう。そうすると、皆さん一回見上げる動きが入るじゃないですか。他にも、すぐそばをキャラクターたちが何度も通ることで、作品の世界がすぐそこにあると感じてもらって、亀田さんの脚本のなかで景色がくるくる変わっていく様を想像してもらえる空間作りを目指しました。オリジナルドリンクを味わって、ライトを振って参加できて。『美少女戦士セーラームーン』の世界に飛び込める、ということを意識しています。
大学在学中に演劇に出会い、その後文学座付属演劇研究所を経て、自身が主宰を務める劇団・東京パチプロデュースを旗揚げする。劇団では全ての公演の脚本、演出を担当。現在は様々な舞台の脚本家、演出家、CMナレーターとして活動。 代表作はMANKAI STAGE『A3!』(シリーズ全脚本)、『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage(シリーズ全脚本)、舞台「ダンダダン」~Occultic Stage~(脚本)、ホンダ・オデッセイCM(ナレーション)など
――演出面で特に注力した部分は?
植木:ワンシーンとして同じ演出がない1時間にしました。その中で、先生のイラストのグラデーションを舞台上の色彩で感じてもらえたらと照明を含めた色彩設計をしたんですが、さらに武内先生が足を運んでくださって「ここはもっと毒々しくていい」など、色を教えてくださったんです。この作品でしか観られない『美少女戦士セーラームーン』の色が出来上がったと思います。
五感をぶん殴る。同じ瞬間が一つもない、1時間の設計
――その緻密な演出は、テンポの良さでも評判です。
松本:3分に1回くらいのペースでコンテンツがどんどん変わっていく、飽きさせない演出は本当にすごいですよね。
亀田:豪さんの演出ってテンポがいいんです。五感をぶん殴ってくる。だから、問答無用で面白い、かっこいいと感じられるんです。
植木:テンポ良くないと自分が飽きちゃうから(笑)。今も昔も、いい舞台ってちゃんとコンテンツ分けされているんです。例えば図書館のシーンなら、アンサンブルが本を持って登場して、静かな音楽が流れる。その場所だからこそのストーリー、ダンス、照明、動きがあって、各シーンに「これじゃなきゃダメだ」という理由を持ってやっています。その理由がちゃんとあれば、お客さまはさらに没入していけるんじゃないかなと。
幼少期からエンターテインメントの世界に触れ、2006年株式会社ネルケプランニングに入社。 2016年取締役に就任。主な作品として、舞台「鬼滅の刃」、舞台「パタリロ!」、「ヒプノシスマイク」-Division Rap Battle-』Rule the Stage –、劇団EXILE公演、乃木坂46出演作品などさまざまなジャンルの舞台化の企画に携わる。
――家族連れやお子さんの観劇について、作り手として意識する部分はありますか。
植木:それは普段から意識しているかもしれません。作品を知らない人が観てもかっこいいと思ってほしいし、知っている人が観ても楽しいと思ってほしい。亀田さんの脚本は演劇として楽しみたい方も唸らせるので、そこはすごいなと思っています。
狙って起こせない奇跡。キャストと客席が、一緒に作るもの
――公演後のお見送りやグリーティングも話題ですが、稽古段階でキャストに何か伝えたのでしょうか。
植木:ライブに関しては、キャラクターとして生きていたら、ちゃんと愛してもらえるからと伝えましたが、それ以外は僕は何も言っていません。キャストが自分たちで考えた結果です。本人たちがキャラクターとして最後の瞬間まで生きている。それを真摯にやっているから、SNSでの反響にもつながったんだと思います。キャストもお客さまも『美少女戦士セーラームーン』が大好き。本当に好きな人同士だから、これだけ大きな反響を作り出しているんだと思います。
――公演がスタートして数ヶ月。手応えはいかがですか。
植木:あんなバズり方をするとは、びっくりしました。最初、僕はたしかに「バズってくれ」と言ったんです。それくらいみんな原作から飛び出してきたみたいに素敵だし、ステージを観てもらえたらバズるよ、と。でも想像以上の反響をいただいて、「もうバズる意識は持たなくていいよ」と言ったほどです。彼女たちが僕たちにくれたギフトですね。狙って起こせるものじゃない。これはもう、奇跡だと思います。
――最後に、観劇に一歩踏み出せずにいる方へ、どんな体験が待っているか教えてください。
植木:いい意味で非日常を体験できる劇場になっていると思います。原作を知らなくても、ダンスが好きならそれだけで楽しめるし、キラキラしたセーラー戦士にパワーをもらえる。こういうIPを持ってやっているシアターって世界を探しても珍しいと思います。ここだけの新しい体験をぜひ味わってもらって、一緒に作品を作っていってほしいなと思います。
(取材・文:双海しお、撮影:大塚浩史)
美少女戦士セーラームーン -Shining Theater Shinagawa Tokyo-
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【東京】
2026年4月4日(土)~
© Naoko Takeuchi
© 武内直子・PNP/「美少女戦士セーラームーン -Shining Theater Shinagawa Tokyo-」project


