ネルケプランニングが手掛ける関西発の演劇プロジェクト「ネルケWESTプロジェクト」。2026年7月に5年目を迎えたこのプロジェクトに、現在WEST事業部部長として取り組む山岡由佳にインタビューを行いました。東京とは異なる関西の演劇カルチャーや、現場での挑戦と苦労、今後の展望までをたっぷりとお届けします。
就職氷河期に劇場案内係のアルバイトからキャリアをスタートし、小劇場の劇団制作を経て当社に入社。以来、10年以上にわたり制作一筋で現場を支える。現在は関西発の演劇プロジェクト「ネルケWESTプロジェクト」の担当として、新たなエンタメの土壌づくりに尽力している。
<「ネルケWESTプロジェクト」とは?>
・関西発の演劇プロジェクトとして、地域で愛される施設・地元に根付いたコンテンツづくりを目指す
・2.5次元ミュージカルをはじめ、関西発・関西ならではの“新しい演劇エンターテインメント”を発信
・神戸を拠点に活動する「神戸セーラーボーイズ」などの若手俳優の育成や、地元クリエイターの起用を推進
(以下「ネルケWEST」)
チラシの束を引きずって面接へ?! 現場叩き上げ・WEST事業部山岡の演劇ルーツ
──まずは、山岡さんが演劇にかかわるようになったきっかけから教えてください。
元々絵を描くことが好きで、絵にかかわる職に就きたいと考えて美大に入ったんですね。でも、そこで演劇がものすごく好きな友達に出会いまして。その子の影響で舞台を観に行くようになり、「すごく楽しいな」とハマりました。実際に就職を考える時期になり、何か舞台にかかわれないかと考えたんですけど、照明や美術プランを学んでいたわけでもなかったので、手に職があるわけでもなく……。「制作」の仕事だったらできるかな、と思いました。
でも、私が卒業を迎えるころは就職氷河期で、就職もなかなか厳しく…。そこで、まずはアルバイトの派遣業者に登録して、劇場のご案内係から演劇とのかかわりをスタートしました。その後、たまたま小劇場の劇団の制作募集を見つけて、アルバイトをしながら劇団付きの制作になりました。
──ネルケプランニングへはどのような経緯で入社されたのですか?
劇団の制作を始めて数年経ったころ、社会人経験をきちんと積んだほうがいいのではないかということも考えた時に、転職エージェントさんから「ネルケプランニングという会社があります」というご案内をいただきました。面接のタイミングが、ちょうど劇団のチラシを手作業で折り込みする日だったので、チラシの束をカートで引きずって面接に行ったことを覚えています(笑)。気づけば、あれから10年以上が経ちましたね。
手探りの「ネルケWEST」始動と、直面した関西演劇のリアル
──ネルケWESTにはどのような経緯でかかわることになったのでしょうか。
制作部で長く働いていたのですが、ネルケWESTで稼働しているキャリアが浅いスタッフが現場で奮闘していると聞き、様子を見に行ったのがきっかけでした。元々出身が関西だったということもあり、「興味ありますか?」とお声がけをいただき、そこからトントン拍子に話が進み、瞬く間に担当になっていました(笑)。今は、東京で打合せがあれば東京に出向くなど、西と東を行ったり来たりしている状態です。
──ネルケWEST立ち上げのきっかけは何だったのでしょうか?
2011年の東日本大震災が起こった時、東京は動けないけれども関西は大丈夫、という状況がありましたよね。その時の「関西では演劇・エンタメを届けられるのに」という思いから始まったと聞いています。地方に拠点を持つ構想は以前からあったそうで、2022年に「ネルケプランニング2ndシーズン」と銘打ったタイミングで本格始動しました。立ち上げ当初は、「制作」の経験がある人がほとんどおらず、人脈もなく、相当大変だったようです。
──実際にネルケWESTの現場に行かれてみて、東京と関西の演劇事情の違いはどのように感じましたか?
まず、ネルケプランニングという会社名があまり知られていません。それから、関西には「演出助手」というポジションがないところが多いことに驚きました。「舞台監督」「演出部」も東京と担う範囲が違ったりします。費用感もシビアで、チケット代も手を出しやすい金額にしなければならないため、制作費など予算を削らなければならないことが多いです。
稽古場事情も全然違っていて、東京のように長期で借りられる場所が少ないんです。劇団の方々も、スポットで数日借りながら点々とすることが多いそうで。私たちが長期間稽古場を押さえてしまうと、地元の劇団の発表の場がなくなってしまうこともあるので、そこは新入りとしての振る舞いを考えながらやっています。
「演劇ファン」が根付く関西の土壌と、発掘を待つ原石たち
──お客さまの層にも東京と関西で違いはありますか?
東京のお客さまはエンタメになじみのある方が多いですが、関西では「ザ・演劇」が好きな方、昔ながらの香りや雰囲気が残る作品を好む方が多いと感じます。また、折り込みチラシの力を感じます。昨年、NELKE WEST PROJECT vol.1『少年探偵団 空気男事件』という公演を近鉄アート館で上演したのですが、演劇好きの男性がふらっと「当日券ください」と立ち寄ってくださることがありました。
劇場自体を演劇のコミュニティにしようという動きがあり、演劇ファンが集う土壌ができあがっているのを感じます。あとは、大阪の方は笑いを求めがちだなと(笑)。全く笑う演目ではないのに笑いを探されていることもあったりして、お笑い文化の偉大さを感じますね。
──そういった独自の土壌がある中で、関西のポテンシャルをどうお考えですか?
お客さまだけでなく、スタッフやキャストをやりたい方が、実はいっぱいいると思います。知らないだけ、舞台を観る機会がなかっただけ、身体を動かしたことがないだけ、という原石がたくさん眠っている。オーディションでも「最近舞台を観た人?」と聞いても手が挙がらないこともあるんです。ただ「芸能活動をしてみたい」みたいな動機でも全然いいので、「とりあえず、まずはおいで!」と思っています。
地元密着プロジェクト「神戸セーラーボーイズ」の躍進
──オーディションと言えば、「神戸セーラーボーイズ」ですね。
「神戸セーラーボーイズ」も、歌やダンスの経験がまったくないところからスタートしたメンバーもいました。10代の少年たちの成長は早いと言いますが、歌えるようになる、踊れるようになるだけでなく、芝居や表現することの楽しさが分かるようになっていく姿は、本当に成長著しいなと思っています。
──地元密着ということで、自治体や企業との取り組みもされていますね。
「神戸セーラーボーイズ」も今年で発足4年目になりますが、関西のテレビ局やラジオ局で冠番組を持たせていただいたり、昨年は大阪・関西万博でのステージにも出演させていただきました。
また、神戸市民祭協会が主催する神戸市最大のおまつり「神戸まつり」で披露した彼らのステージをたまたまご覧になっていた国土交通省 神戸運輸監理部の担当者の方が「神戸にこんなユニットがいるんだ」と、兵庫県での海事観光PR動画出演をオファーいただいたりもしました。
最近は、大丸神戸店の催事PR動画の発信にも参加させていただいていますので、メディア・自治体・企業と連携して舞台公演以外での活動の幅も広げています。
「神戸セーラーボーイズ」は育成プロジェクトでもあるので学校のような側面もあるんですが、少しずつ「ネルケWESTといえば神戸セーラーボーイズだよね」みたいな認識を持ってもらえてきていると思います。いつか、「神戸といえば!」と言っていただける存在になれるといいですね。
「関西で、演劇で、食べていけるように」次世代育成と未来へのビジョン
──「ネルケWEST」として今後、地元にどのようにかかわっていきたいですか?
まずは、関西のスタッフさんやクリエイターさん、役者さんを積極的に起用し、関西の演劇で食べていけることを目指したいです。去年の秋頃から、スタッフワークをなるべく関西の方にお願いしようとシフトしています。関西が題材の作品作りをすることにも取り組んでいきたいです。
あとは「やってるよ」と言い続けていくことが大事だと思っていて。昨年末には、扇町ミュージアムキューブで「舞台芸術おしごとナビ」という舞台芸術の仕事を目指している方々を対象にした就活イベントに出展しました。「ネルケWESTが公演をやっている」「ここに仕事があるかもしれない」と思ってもらえるようになったらと思っています。
──学生さんを舞台に招くなど、若い世代へのアプローチもされていますよね。
去年は、学校の生徒さんに舞台を観に来ていただく機会を設けたりもしました。まずはエンタメに触れてもらい、興味を持ってほしいと思って、終演後に制作と話せる会、スタッフが舞台上で話をする会を実施したりしました。
「どうしたらネルケで働けますか?」とストレートに聞いてくださる方もいらっしゃるんですけど、その前に「何をしたいか」が大切だよねとお伝えしています。まずは興味を持って「舞台やエンタメのことをやってみたい」と思ってもらえるようになりたいです。
──今後のネルケWESTとしての展望はどのように描かれていますか?
関西の演劇界が直面している「予算や費用のシビアさ」といった課題や「若手の育成」を考えつつ、演劇にかかわる人たちが寄り集まることで生まれるハブ(交流の場)になればいいなと思っています。先日、ネルケWESTの新しいオフィスのお披露目会をした際、関西各所の劇場さんやメディアの方などたくさんお越しいただいて、媒体や府県の垣根を越えて、普段聞けない関西事情が分かったりしてとても面白かったんですよ。
まずは関西で頑張って結果を出して、エンタメを楽しくできる憩いの場・育つ場になればと思います。個人的には、関西だけで制作チームを確立させたいですね。あとは、稽古場との提携……これが一番悩ましい問題なので、うまいサイクルを作りたいです。
中途採用面接を受けたのが10年以上前と話しましたが、入社してから会社の体制もどんどん強く逞しく変わっていきました。制作だけでなく、宣伝担当や公演グッズを制作する商品企画担当など各専門の部署が力をつけてきて、海外公演にも積極的に取り組み、コロナ禍でも足掻いて足搔いて進んできたと思っています。
今はまだまだこれからのネルケWESTですが、制作チーム・広報営業チームのスキルや企画力の底上げによる関西演劇人からの安心感、信頼の獲得には特に力を入れたいと思っています。そして、2.5次元ミュージカルの既存のイメージに縛られないからこそ生み出せる「東京ではできない2.5次元ミュージカルジャンル」の発信が叶うと信じています。
10年後には演劇を志す人口が増え、キャストオーディションの応募者が増え、観劇人口が増え、…今必死に育てている芽が伸びて花を咲かせる様子を思い描いてやみません。
関西の演劇ファンの皆さまに楽しんでいただけるものを提供していきたいと思っていますので、「こんなことやってるんだ」と目に留まったら、気軽に「ネルケWEST」の公演に来ていただけたらうれしいです。
(文・撮影:松崎 玲)
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